2011年に公開された「コクリコ坂から」。
あの宮崎駿監督が脚本にまわり、監督を息子さんの宮崎吾郎さんが務めたことでも話題となった作品です。
ところが公開後、「あまりに原作と違う」「まったくの別物」ということでも話題になってしまいました。
いったい映画と原作、どこが違うのか?
どうしてこんなに改変されてしまったの?
また映画とは違う原作の結末も合わせてまとめてみました!
(ネタバレを含みますのでご注意ください)
「コクリコ坂から」映画版のかんたんなあらすじ
今日から6月☔️
コクリコ坂からに6月4日の週刊カルチェラタンがあった気がしたのでコクリコ坂からを選んでみました❕
落ち込んだ時は、上を向いて歩いてみましょう💭(何かにぶつからない程度に) pic.twitter.com/A0lgc20YeB
— すず (@suzu__one) June 1, 2022
横浜の海の見える丘にある「コクリコ荘」を切り盛りする女子高生、松崎海。
亡くなった船乗りの父をしのび、毎朝庭に旗を揚げるのを日課にしていました。
ある日旗を揚げる自分のことを詠んだと思われる詩が校内新聞に載り、その作者にひそかに思いを寄せるようになります。
そんな中、部室棟であるカルチェラタンが老朽化のため取り壊しが決まりますが、存続を望む学生が反対運動を起こします。
その運動の一員、風間俊が詩の作者と知り、次第にひかれていく海。
ところが彼にはある秘密が・・・。
「コクリコ坂から」原作はここが違う!
海は男の子も平気でどなりつける快活な女の子
えっ、原作こんな絵柄なの!?雰囲気違い過ぎワロタ #NTV #金曜ロードSHOW #コクリコ坂から: https://t.co/cd4pkUoVvN ANAVRIN107
— ダンボール五郎 (@merumaga07021) May 29, 2022
映画では短めのおさげがトレードマークですが、原作ではかなり長いおさげで、おろしたり結ったりと少女漫画らしくバラエティーに富んだヘアスタイルをしています。
また、映画ではやや大人しめな性格で、家事をきちんとこなすしっかり者として描かれている海。
ところが原作では弟妹や同級生の男子たちにもはっきりと物を言い、自分が納得できない事にはどなりつけることもある活発な女の子です。
父親が船の事故で長く行方不明という不遇にも負けず明るく振舞い、弟妹たちをきちんと世話し、家事を(やや危ないながらも)こなしています。
映画では「コクリコ荘」という下宿屋を営み、海はその切り盛りをしている設定ですが、原作では母親の実家に下宿人がおり、母親の代わりに家事をしているというふんわりした設定です。
そのため、原作では「コクリコ荘」という名称は出てきません。
海の原作の快活さは映画では大人しめになり、代わりに下宿人たちへの面倒見の良さや責任感の強さがしっかりと描かれているようです。
北斗は男性で獣医学生の海の片思い相手
来週は『コクリコ坂から』
原作をうまく料理してるんだよな、キャラや山場の比重とかも整理されてて(性別が替わったキャラも)
その分ザックリ進めてる所もあるから原作は読んでおいた方が良いね
あと当時の時代背景もちょっとくらいは知っておくとなお良い pic.twitter.com/yI4Jc55haS— 大門 (@daimon_108) August 14, 2020
映画では研修医の下宿生「北斗美樹」(CV:石田ゆり子)でしたが、原作では「北見北斗」という獣医学生。
原作序盤から登場し、ずっと海の片思いの相手でした。
年上で包容力があり、優しい北斗さんですが、獣医になり北海道へ渡ることになります。
最後の日、海は思いを伝えようか迷いますが、その時風間のことも気になっており、何も言えず送り出すことになってしまいました。
少女漫画の王道な展開ですね!
その後は風間と海の恋愛が主なストーリーとなり、北斗さんはほとんど出てきません。
北斗さんへの思いは、兄に向ける妹のような気持ちだったと回想しています。
カルチェラタンは出て来ない
『コクリコ坂から』では、カルチェラタンは男の巣窟、コクリコ荘は女の園として描いています。 pic.twitter.com/S01dWPsS5c
— ジブリのせかい【非公式ファンサイト】 (@ghibli_world) May 7, 2023
映画と原作のもっとも大きな違いはこれ。
映画のメインストーリーとなる「カルチェラタン(文化部部室棟)をめぐる学生運動」は、原作にはまったく登場しません。
これは原作の舞台が70年代であり、ストーリーの主題となる学園紛争があまりに古臭く、また現代のコンプライアンスに激しく抵触する内容のため、そのまま映画には出来なかったからと考えられます。
映画では舞台を1963年に設定し、学生が大人に屈せず主張を通すという学園紛争を部室棟の存続運動に置き換えてメインストーリーとしています。
ジブリ映画の特徴として、恋愛を描く時はあまり表面に出さず、恋愛以外の事柄を主題にすることで水面下でふたりの距離を縮めていくという場合が多いようです。
「コクリコ坂から」で風間と海の恋愛を描くにあたっても「カルチェラタンの保存運動」を通じて絆を深めていくふたりを描くよう再構成されているようです。
ちなみに、「カルチェラタン」とはパリにある地名。
本来の名前は「清涼荘」といい、明治時代に建てられた由緒ある建物という設定だそうですよ。
風間と水沼の学生運動は賭けマージャンが動機
現代のコンプライアンスに真っ先にひっかかりそうなのがこの賭けマージャン。
原作では風間と水沼は親友で、水沼は「料亭水沼」の息子。
そこに出入りしている女子大生のバイト芸者に賭けマージャンに誘われ、みごとに大負け。
ふたりは借金を抱えるはめになり、水沼は生徒会のお金に手を付けてしまいます。
その使い込みを穴埋めするため、新聞部部長の風間がわざと騒動を起こし、生徒会長の水沼がそれを糾弾する記事を出して新聞の売り上げを伸ばし、借金を返済するという自作自演を実行。
風間は校舎の3階から飛び降りたり(死ぬぞ)、水沼は飲酒や喫煙、悪だくみなどのシーンもあります。
映画での品行方正なふたりとは正反対の、とてもジブリ映画では使えない設定ですねw
高校生の飲酒・喫煙もまずいですが、賭けマージャンや生徒会費の使い込みなど、何もかもが「あかん!」
原作の連載時期は1980年なので、今ほど公序良俗に厳しくない時代だったようです。
風間と異母兄妹疑惑のあと別の男性とつきあう海
古いものを壊すというのは
過去の記憶を捨てるというのと同じではないのか!
人が死んでいった記憶をないがしろにする事と同じではないのか!「コクリコ坂から」風間 俊 pic.twitter.com/gUAypM813C
— スタジオジブリ心に響く台詞 (@totoro_l_u_v) June 1, 2022
ふたりの間に血縁関係があるという疑惑で疎遠になったあと、海は広瀬という上級生と交際を始めます。
広瀬はイケメンですが軟派で女好き。
そして新聞部部長の風間のことが大嫌い。
新聞部の出した「校内ダメ男ベストテン」に入れられ、恨んでいるのです。
自分には貴代という彼女がいるのに、「風間がくやしがるだろう」という安直な理由で海にちょっかいを出します。
海は「風間のことを忘れたい」あまり、広瀬の誘いに乗ってしまいます。
ディスコに誘われ、暗がりで襲われそうになったところに助けに来る風間。
少女漫画の王道ですね!
海のお母さんは未婚の母?
原作では海の母親はカメラマンをしており、海外で仕事中。
美人で派手な性格で金銭感覚に乏しく、お金の催促をしたり、無駄にパーティーを開いては海に接待を頼んだりしています(最悪)。
父親は船乗りですが海で遭難し、行方不明。
もう10年もたつようです。
原作の後半、海の祖父から「海の母親は未婚の母」という衝撃的な言葉が飛び出します。
海や弟妹たちは「父親の籍に入っていない」可能性があるようなんです。
海の母親「虹江(映画では良子)」は、海の祖父に「結婚を許してもらえるまでは婚姻届けを出さない」と意地をはっていたそう。
そして祖父は海の両親の結婚に反対して家出中。
「あの男が遭難する前に折れてやるんじゃったな」というセリフがあります。
つまり、物語の時点では、「家出中」=「まだ結婚を許していない」=「婚姻届けを出していない」と読み取れます。
何故ふたりの結婚を許さなかったのでしょうか。
それは「子持ちの船乗りに大事なひとり娘をやりたくなかった」から。
海の父親には、結婚前に子どもがいました。
それが風間です。
ところがこれにはちゃんと種明かしがあり、
「海の父親の親友が亡くなり、その妻も風間を産んですぐに亡くなってしまった。風間を施設に入れないために、父親は自分の籍に風間を入れ、本当の子どもとして引き取った」
とのこと。
ややこしいし無理がないか・・・?!
それに何故苗字が「風間」なのかという謎が残ります。
風間は結局、海の父親には育てられず、「風間写真店」に引き取られたようです。
そこで飾っていた父親の写真が、海の父親と同一人物というのが、「血縁関係」疑惑の発端なのですが・・・。
原作では海と風間が一緒に役所に戸籍を見に行くシーンがあり、
「うちのママは結婚してないってことになってるらしいのだけど」
「結婚してないまでも、しっかり認知はしてあるよ」
というセリフがあります。
そのまま受け取ると、海の両親はお互い籍を入れていないが、父親は海たち弟妹をしっかり認知しているということでしょう。
そして風間は自分の戸籍を見ているのかどうか判別できないのですが、
「(父親は海の父親と)まるっきり同一人物」
というセリフがあります。
風間姓は、自分の母親のものなのかもしれないですね。
この辺の分かりにくさや設定盛りすぎ感は映画スタッフも悩んだようで、映画ではかなり整理され、無駄なエピソードは省かれています。
「コクリコ坂から」原作の結末について
昨夜はトトロでしたね
来週の「コクリコ坂から」は吾郎さん監督で、ちょっとマイナーな気もするんだけど……
実は結構好きな作品なのですよ
観てない人は来週ぜひ pic.twitter.com/PBbVOdisOT— ばるこん・シンセシス・3歳児 (@Baruko_hit) August 14, 2020
自分と風間の間に戸籍という決定的な証拠を突きつけられ、絶望する海。
なんとか風間への恋心を忘れようと日々を忙しく過ごしますが、かなり無理をしています。
そして校内でも「海と風間がきょうだい」という噂が立ってしまい、心労で倒れてしまいます。
目覚めた海は北斗さんのいる北海道へ行きたいと荷造りを始めます。
そこへ母親が登場。
ふたりには血縁関係がないと明かされ「風間さんに会ってくる!」と喜びの涙を流しながら家を飛び出す海。
「これから踏み出すわ あなたにむかって!」と希望にあふれたラストになっています。
そして1年後(早いな!)、北斗さんへの手紙を書く海。
弟はあっという間に背が伸び、妹にはたくさんのボーイフレンドができ、風間は商船大学に入学し、母親はまたもパーティを開いてどんちゃんさわぎ(絶許)と報告します。
「海はみんなにからかわれるくらい ニコニコしていたようです。風間さんのそばにいると、自然とそうなってしまうのですヨネ」と幸せいっぱいの結びとなっています。
(唐突な一人称名前呼びにびっくり)
大団円ではありますが、若干駆け足なかんじですね。
打ち切り説もあるようです。
とくに血縁関係の解決は、あまりにやっつけすぎてよく分からないまま・・・。
いろいろ疑問点が浮かびますが、1980年代の少女漫画なので「細かいことはいいんだよ」かもしれないですねw
海の母親の「戸籍の訂正は申し出なければ」というセリフを信じたいところです。
まとめ
コクリコ坂からの映画と原作では、だいぶ違う箇所がある。
ヒロイン海のキャラクター設定も大幅に変わっている。
原作では「コクリコ荘」という名称は出てこない。
映画版では品行方正な風間と水沼は賭けマージャンをしたり生徒会のお金に手を付けたりと問題を起こす生徒。
原作の結末は映画と同じく風間と結ばれはするが、かなり駆け足の展開で打ち切り説もある。
「コクリコ坂から」を見逃してしまった人、もう一度みたいなあ・・・という人。
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