2020年10月からいよいよアニメ放映が始まる「憂国のモリアーティ」。
現在12巻まで発売されており、退廃的な世紀末のロンドンで繰り広げられる「犯罪卿」モリアーティと、「探偵」シャーロックとの対決が見どころの作品です。
ところが1巻に登場する「グレープフルーツのトリック」は、実現不可能?
いったいどこが無理やりなのか、その理由も考察しました!
(作品の重大なネタバレを含みます。ご注意ください)
憂国のモリアーティ1巻グレープフルーツのトリックの解説
10月から始まるアニメも楽しみ。#憂国のモリアーティ pic.twitter.com/ddPDOdsSYa
— いお (@anima_io) September 28, 2020
「犯罪相談役(クライムコンサルタント)」ウィリアム・モリアーティ最初の事件となる1巻の「グレープフルーツのパイ1つ」。
ロンドンからイギリス北東部のダラムに越して来たモリアーティたち兄弟は、「貴族様」と近所の農民たちから白い目で見られてしまいます。
彼らはダラムを領地とするダブリン男爵の重い地代のため、苦しい生活を強いられていました。
かつて一人息子を男爵に見殺しにされたバートンとミシェル夫妻は、「犯罪相談役」でもあるウィリアムに「息子の敵をとってほしい」と依頼をします。
そこで使われたのが、「グレープフルーツ」のトリックです。
グレープフルーツの副作用
憂国のモリアーティ、心臓病の薬とグレープフルーツの相性の話のあたりで「ん?」となり、モラン大佐の狙撃銃にもろにサプレッサーらしきものがついてたあたりで「これは考証に突っ込んではいけない」となった。
話はすごく面白いです。
— 草壁 (@kusakabesyuuji) November 7, 2016
「グレープフルーツのトリック」とは、心臓の病気で薬を飲んでいるダブリン男爵に、それと知っていてグレープフルーツのパイを食べさせたこと。
現在でも、高血圧や狭心症の治療薬として使われるカルシウム拮抗薬の一部と、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類という成分は「してはいけない飲み合わせ」として薬局などでも注意されるものです。
ふたつを同時に摂ると肝臓の代謝が弱まり、薬が体内に長くとどまってしまいます。
その結果、必要以上の強い効果が出てしまい、血圧の急激な低下や心拍数の増加、頭痛、顔面の紅潮、めまいなどの症状が出ることがあります。
頭痛薬として使われるアスピリンについて
「グレープフルーツのパイ1つ」では、この副作用を利用し、人々を苦しめ保身に走るダブリン男爵に「死」という鉄槌を下しました。
「モリアーティ」の舞台は19世紀末のイギリスですが、当時でもすでに薬の製造は始まっており、有効物質の抽出や単離が可能になっています。
頭痛薬として使われるアスピリン(アセチルサリチル酸)も、19世紀末には合成・発売されており、ダブリン男爵の飲んでいた薬も最先端のものだったのかもしれません。
当時薬はとても高価なものでしたが、貴族である男爵は領民を働かせ得た地代で、不自由なく飲んでいたようです。
グレープフルーツのトリックが不可能な理由
イギリスでグレープフルーツは育たない
…土産だ。
どうもご丁寧に…後ほどパイにしてお出ししましょう。
コミック憂国のモリアーティ1巻より
(…どうして⚫ーさんなんでしょうか?)
(家にある紙袋がこれしかなった!)という事で1巻、ダブリン男爵家の晩餐。
バートン氏のお土産で作られたグレープフルーツのパイです。 pic.twitter.com/zCVz6WYiGo— 山葵 (@wasabi0704) November 13, 2019
心臓病の薬は19世紀末でもおそらく可能ですが「イギリスでグレープフルーツが獲れる」という点に疑問があります。
作中で使われたグレープフルーツは、息子を見殺しにされたバートンが手塩にかけて育てたもの。
バートンはダブリン男爵の領地であるダラムで農家をしています。
ダラムはイギリスの北東部に位置し、ロンドンからは列車で3時間ほど。
自然豊かで美しい街並みがあります。
気候は「夏は涼しくて短く、冬は非常に寒い」「1年を通して気温は2℃~19℃」「23℃を越えることはめったにない」とのこと。
この気候で、果たしてグレープフルーツは育つのでしょうか??
憂国のモリアーティ属官も購入検討するくらい面白かった!
グレープフルーツをイギリスで栽培すんのはさすがに無理があるけどそれ以外は面白かった— Noka❖ヒカオケまで-623日 (@Noka_L) May 10, 2018
現在のグレープフルーツの収穫地は主に「アメリカ(フロリダ)」や「南アフリカ」「メキシコ」。
原産国は西インド諸島(バルバドス島)で、亜熱帯産の果物です。
日本には大正時代に伝来しましたが、気候が栽培に向かず、あまり定着しなかったようです。
(今では国産グレープフルーツもあり、年に11tほど生産されています)
19世紀でハウス栽培は現実的でない
最近のわりと暖かい日本でも育てにくいのに、もっと寒いイギリスではとても売ったり食べたりするようなグレープフルーツは収穫できないと思われます。
現代ならハウス栽培で作れるかもしれないけど、19世紀だし・・・。
トリックとして薬物の拮抗を使うのはよくあるので、ミステリファンには見破られるのが早いと思いますが、それは悪くないですよね。
また「息子を見殺しにされた夫が作った物で敵を取った」とするのは、因果応報のストーリーとして納得できます。
トリックのアイテムに「イギリスでは栽培が難しい」グレープフルーツを持ってくるのが、ダメだったと思います。
ここがちょっと残念なポイントです。
一応、作中でも「育てるのが難しい」とフォローは入っているので、妊娠していた奥さんの好物であるグレープフルーツを、夫が「愛の力」で育てた、としておくのが良いのかもしれませんね。
まとめ
憂国のモリアーティ1巻グレープフルーツのトリックは、心臓の病気で薬を飲んでいるダブリン男爵に、それと知っていてグレープフルーツのパイを食べさせたこと。
高血圧や狭心症の治療薬として使われるカルシウム拮抗薬の一部と、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類という成分は「してはいけない飲み合わせ」として薬局などでも注意されるもの。
ところが、わざと食べさせたグレープフルーツのパイは、モリアーティに依頼したバートン夫妻が自分の農地で作ったグレープフルーツを使ったもの。
グレープフルーツは暖かい地方でしか栽培できない植物で、現在の主な産地は「アメリカ(フロリダ)」や「南アフリカ」「メキシコ」。
この舞台のダラムという地方は通年を通して寒く、暖かくなることはめったに無い。
そもそも19世紀のイギリスでグレープフルーツの栽培は無理がある。
イギリスで採れたグレープフルーツを使ったトリックは不可能。
コメント